境界線
N-1
デッドオアアライブ
どうしてそこに飛ばされたのかどうしてこの人のところだったのか分からないが、起きてしまった現象は巻き戻せないし帰るつもりもない。恐らく戻った瞬間、死が待っている。
占いをできなくなったからこの手もこの身体も、物心ついてからずっと愛を得たいと思ったあの人にとって用済みだ。
追い詰められたあの部屋で、逃げたいと思ったのも事実。最後にネオンを守ろうとしてくれた付き人たちは死んじゃってるかも知れない。結果は分からない。次の瞬間にはここにいたからだ。
たぶん何らかの力が働いたのだろう。護衛たちがたまに見せるみたいな不思議な力が。
「選べ」
久しぶりに見たその人は、間違いなくネオンを殺そうとした。でも結局殺されなかったからネオンはまだ生きている。
なぜここにいるのかを問われ、自分が理解している限りをネオンは口にした。突然のことに焦っても仕方がない。
ネオンの首を話ができるぎりぎりで絞めながら、聞いていたその人はしばらく考えた後にうなづいた。ネオンの顔は赤黒く、首から下はいつもよりさらに病的に白かった。
爽やかな空気を変えずにその人は言った。
「今、家に戻って死ぬか、ここでオレの気の済むすむまで生きてから死ぬか、君はどっちを選ぶ?」
この人がA級の賞金首――ブラックリスト――の幻影旅団の頭だと、今は知っている。他でもなく本人が仲間にダンチョーと呼ばれてると言ったし護衛の誰かが幻影旅団の頭を団長と表現してた。だからネオンは知っている。
だけど答えは言わずもがな、だ。
ネオンはなけなしの力で自分の首を絞める本人を指差した。
「何?言わないとオレには理解できない」
ネオンの動きに一瞥もくれずにネオンを見続ける真っ黒な目。
「・・・ロさ、・・・ん」
「絞めすぎてるのか?これくらいなら話せるだろう?」
ゆるむ首の拘束。
「クロロさん」
むせても、きつそうに聞こえてもいけない。本能的にそう判断してネオンはできる限り普通の声を出したつもりだ。
「分かった」
ネオンの努力など歯牙にもかけずにあっさりと答えたクロロだったが、まだ先があった。
「条件を守れるのなら君を匿う」
「条件って、何?」
条件を尋ねるより先に、なぜ匿ってくれるのか聞きたかったが、ネオンはそれを聞ける立場にはいなさそうだった。
クロロは言った。
「君はオレが快適に過ごせるようにこの家を作るんだ。君はお嬢様だから最初から完璧にやれとは言わない。けど」
クロロは確かに表情を変えていない。なのにネオンは物理的にではなく、また息を止めた。いや、止められた。
「オレが満足できないと判断した時点で君を殺す。いいな?」
「わか・・・た・・・」
クロロはようやくネオンの細い首から、手を離した。
「オレを、飽きさせるなよ」
爽やかな声音はネオンには届かなかった。長時間首を絞められ血行が悪かったせいで、ネオンはそのまま気を失った。
以上