境界線
N-3
団長
ある日だ。
ネオンが目を覚ますとクロロがいなかった。これはしょっちゅうあることなので驚くこともない。特に気にせずネオンは相変わらず家のことをしていた。
慣れとはすごいもので、今となっては料理の腕はなかなかのものではないかと思う。おいしいという感想があるのは人の成長を後押しするものだ。クロロはそういうところが優しい。人を延ばすすべに長けているのかも。
片付けは監督が甘い分、未だにいまいちだけど。
さて、クロロはいなくなる時もだが、帰ってくる時も突然いる場合が多い。
ここはクロロの家なのだからおかえりただいまがなくて当然だが。でもネオンはそのやりとりをちょっとしたいと思ってたりする・・・。と、いうことは別に置いておいて。
居間に人影がいて、ネオンはクロロであることを疑わずに近寄った。うつむいていたその人が顔を上げた時、違いに気付いた。
だって身体の形が同じだったからクロロだと思ったのだ。
ネオンは後ずさる。
とうとう見つかったのだと。
万事休すだと。
思った。
その時浮かんだのは悲しいかな、あんなことをされながら、たったひとりだった。
泣きそうになりながらネオンは呼んだ。
「クロロさん・・・」
「何?」
「え?」
オールバックに髪をセットしたその人が振り向くと、額に見覚えのある十字の模様があった。
「クロロさん・・・?」
「だから、何?殺すよ」
二言目にはこれだ。
ネオンは日常茶飯事の物騒な物言いなど気にも止めずに、クロロに抱きついた。
「あーよかったークロロさんだー」
「あーもー、ちょっと・・・」
余裕で避けられるはずのクロロはネオンが抱きつくことを受け入れている。
ぎゅうぎゅう抱きしめながらネオンはクロロに擦り寄る。
だってすごく安心したのだ。
「身体が同じだからクロロさんだと思ってたんだけど、髪がサラサラじゃないからパパに見つかったんだと思ったんだよ」
「君、オレの身体で判断してるの?」
「うーん・・・そうでもないけどー。クロロさんの身体は綺麗だよね」
「・・・そりゃどうも」
「ねー何でそんな頭して服も真っ黒なの?」
いつも大体ゆるい格好をしているから不思議だった。印象がずいぶん違うのに、これはこれでクロロなのだとカッチリはまる。
「仕事。君を拾ってからもこの格好だった時はあったはずだけど・・・そうか、見なかったのか」
「あはは、クロロさん、いつもより物思いにふける格好が似合ってるよー」
ネオンはようやくクロロから離れると足元の床にぺたりと座った。
クロロはネオンを見下ろし思案する。ネオンは何を言われるのかとわずかに首を傾げている。
「これから君が知らない男がこの部屋に出現することがあるだろうけど、気にするなよ」
間を持たせながら結局、全く別の話題に変わった。それでもネオンは気にしない。クロロと過ごせる時間自体に意義を見いだせるようになっていた。
「うん分かったー」
クロロは手を挙げたネオンの頭をふわふわ撫でる。ふわふわしてるのはネオンそのものかも知れなかった。
「メシはできてるのか?」
うんうんとうなづく。
「できてるよー」
以上