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N-4
興味

 一度違うスタイルのクロロを目撃してからは、確かに今までもどっちの格好でもいたのだろうと思えるようになった。かなりランダムに着替えている。ちなみに今日はオールバックの気分みたいだ。
 むしろ、外出時はこのスタイルのほうが頻度が高いことにも気付いた。今までは本当にうまいことカチ合わなかったのだ。

 さて、一緒に生活するうちに、ネオンはクロロの視線を感じるようになった。いや、感じるなんて敏感さはネオンにはない。ネオンがクロロに視線を向けた時に、その直前までこっちを見ていたんじゃないかと思う節が何度もあっただけだ。
 ネオンがクロロを見ることは多い。他にすることがないなら人間観察の対象はクロロしかいないし、ネオンは人体を見るのも好きなのだ。クロロは今まで見た中でピカイチの身体を持っていると思う。できればやはりもう少し肉がついていたらいい。と、まあそのことは今は関係ない。
 とりあえずクロロなら、ネオンがクロロを見る前に気付かせないように視線を外すことなど容易だろうから、特に隠そうとは思っていないのだろう。

 居間にいる時、前はゲーム機もしくは本くらいにしか興味を向けなかったのに、ネオンが隣の部屋で本の整理にいまだにてんてこまいになってる背をクロロの視線が追ってくる。気がする。
 ネオンを視界に入れていいと思っているということは、機嫌がいいのかも知れない。

「もしかして」
 クロロは物思いにふけると独り言を言う時もあるからネオンは反応しない。だがネオンに向けての言葉だったみたいだ。
「その本、読めてるのか?」
 ネオンがクロロを振り向くとばっちり目が合った。やっぱり見ていたのだ。
 ネオンは両手に持っていたそれぞれを目の高さに上げて首を振った。持ち上げていることを一瞬で断念する。ハードカバーは重くて。
「非力だな」
 馬鹿にして言うのでネオンは頬を膨らませる。
「別に強くなくたっていいもん」
「強いほうが色々便利だ」
「私にはどうでもいいの」
 終わるやりとり。

「こっちだ」
 近寄ったクロロがしゃがんでネオンの膝にあった本を指差す。右手でも左手でもなかった。やっぱり。
 わざと選ばなかったんだけど。
 返答までの少しの逡巡がよくなかった。
「嘘をつくな」
 また首を振ろうとする前に鋭く睨まれる。
 ネオンはやっぱりぷっくりと頬を膨らましたままうなづいた。唯一の優越感がバレてしまった。

 意外なような感心したようなため息がクロロから漏れた。
「すると、君はオレがこの本を攻略してるのを知ってて、自分が分かることを隠していたというわけだ」
 淡々と聞いてくる。
 感心はどこに行った。どこに。
「隠してたんじゃないもん。クロロさん、どーせバカなお嬢様が分かるはずがないと思って聞かなかったんでしょー? というか、私に聞くなんて選択肢もなかったんじゃないの?」
「それも、ある。確かに君が知ってるとは思わなかった」
 ギロリと見下ろすとネオンは肩をすくませた。そうするとぴょんぴょん跳ねた髪の毛まで元気がないように見える。
「だが、君の条件は、オレが快適に過ごせること、だったはずだ。訳して持ってくるくらいできただろう?」
「でも、クロロさん、辞書引いてる時も楽しそうだったし・・・」
 またもやガン飛ばされて、ひゃっとネオンは両手で頭を覆う。恐る恐るうかがうと、あっさり普通に戻っていた。なんだ照れ隠しか。

「んね。今度クロロさんが読む時はお手伝いするから機嫌直してよー」
「君、口出したらうるさそうだからな」
「邪魔しない! 約束!」
 ネオンは小指をクロロに差し出す。クロロは真っすぐにネオンを見る。

 とん、とクロロは目線を外してため息。
 だが小指をネオンに差し出した。意外な承諾に、ネオンは喜んで絡ませた。クロロはネオンが口ずさみながら振り回すのに任せている。

「針千本飲むつもりないだろう」
 勢い良く離された指を見ながらつぶやく。
「うん、ないよ。でも反省する」
「反省ならガキでもできる。ああ、君は子供か。なら仕方ない」
 クロロに馬鹿にされてもネオンは全く気にならない。それもスキンシップの1つだと達観している。
「クロロさんは今なら年相応かちょっと上に見えるね」
「どっちもオレのスタイルなんだけどな」
 髪を下ろして額を隠してても、オールバックで十字が見えてても、眼力だけは変わらないなとネオンは思う。
 もう面倒でネオンの前で作ってないだけかも知れなかった。

以上

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