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似たり寄ったり

「ラブちゃん・・・それ、ストーキングの癖、全然抜けてない」
 萎えた声で指摘されてラブはきょとんとする。
「へ?」
 小春はついさっき、今日は昼までにお姿を二回も拝見できた、とうれしそうな報告を聞いていたところだ。
「だってそれ、私と一緒の登校中に後ろの方から見かけたのも入れて、でしょ?」
「・・・うん」
 照れ臭そうにうれしそうにうなづくラブ。小春は長めにため息をついた。
「ラブちゃん進さんの彼女になったんだよね?好きって言われたんでしょ?」
「そんな・・・!」
 わたわた挙動不振な仕草をしてから、顔を赤くしてラブはまたうなづいた。
「・・・う、うん、でも、何だか近付けなくて・・・」
 この調子だと進清十郎の今日の朝食だとか、すごい細かいところまで把握してそうで、ちょっと犯罪に足一歩踏み込んでるなあと思う。だが2人の場合は当人が気にしてないからいいのか。
「まあ付き合ってることを認められるようになったのは前進だよね」

 目の前で失礼かとは思いつつもカチカチと携帯を操作する。昼ご飯を楽しむことしばらくして、返信。
 やっぱり。
「・・・ラブちゃん、進さんきっと気付いてるよ」
「えっ!?」
 ぐわったん。
 盛大に立ち上がって周りから小さく笑われる。そこに負の感情は含まれてはいないがラブは方々に謝りつつこそこそ座った。
「気付いていらっしゃるの!?」
「だって進さんだし」
 それはまったく理由になっていないのだが、思わず納得させてしまうのが進清十郎という人物の在り方だ。
「進様・・・」
 だから焦がれ死にしそうならぱーっと会いに行ってしまえばいいのに。
「部活の後は、一緒に帰りなよ。どうせラブちゃんも練習しながら大体最後までいるんだし」
「迷惑に感じないかな・・・」
 呆れ半分可愛らしさ半分で小春は一度口を開きかけて止まる。言い直した。
「それは進さんに直接聞けばいいんじゃない?」
「直接っ!?」
 首と手をぶんぶん振ってラブは後ずさる。座ったままだが。
「恐れ多くて!申し訳ないし!」
「もー!ラブちゃんは彼女なんでしょ!」
 内容が内容なので実際こそこそしゃべっているのだが、ヒートアップは止まらない。
「うぅ・・・」
「進さんってストイックで騎士だから、女の子に結構人気あるんだよ?桜庭さんといるから目立ってないだけで。告白とか多分引っきりなしなんだよ?」
 言いながら、騎士というよりは武士だし、告白されてることに気付いてるかどうかは微妙だ、と分析しているが、それはそれ。
 小春の言葉に悲壮な表情になるラブ。
「そ、うだ・・・よね・・・あんなに素晴らしい方だから・・・」
「そこで落ちないでよー・・・だから、それでもラブちゃんが好きだって、言ってくれたんでしょ?」
 がっと手をつかむ。
「自信持とうよ!進さんと並んで歩いてよ!私、何だって応援しちゃうよ!」
「はるちゃん・・・!」
 友情の再確認に、ひし、と抱き合う。
 案の定、ラブが制服でなければ、関係を勘違いしそうな光景ではあったが。

​似たり寄ったり

 

 

 

 

 

 桜庭はもそもそと購買のパンを食べながら、プライベート用の携帯にメール着信のランプが灯ったのに気付く。ぱかりと開いてぽちぽちと操作。届いたメールに顔をほころばせて返信したら、その返信としてはありえない速さでまたメールが届いた。今度は校内の人間からだ。
 この時間ってことは。
 と、最近の周りの動きから見当を付けて開くと、案の定目の前でずるずるゼリーをすする男関連のネタだった。

「なー進、今日ラブちゃんに会った?」
「む・・・」
 飲み口から口を離し、進は戸惑っている。器用なことに無表情のまま。
「あー会ってないんだ」
「いや、三度」
「おーっ、三度も!」
 目の前にごついピースサイン。
「二度、そばにいることを察知した」
 がくり。
 ピースサインの中指が折り曲げられて。
「一度、授業中の様子を見た」
「え、いつ?」
「ラブが体育の授業を受けているところを窓から見た」
「へー、進が授業中に・・・」
 桜庭ならともかく、真面目を絵に描いたような進が。
 進なりにちゃんと向き合ってる様子がうかがえるんだけどなーと思う。
 言い方は悪いがストーカーされてた時間が長くて、見られることがナチュラルになってる感は否めないが。ちょっとそれについては桜庭も人のことを言えないので黙っておく。
「最後の目撃は仕方ないけどさー、ラブちゃんいるって分かってんなら話しかけに行きなよー」
「友人と一緒にいるところを邪魔しては悪い」
「進はラブちゃんの彼氏なんだろー?」
「うむ」
 お、いい返事。
 その友人だってマネージャーだろうし。理解なら十分にあると思うしむしろもっとくっつけってヤキモキしてると思うし。
「なのにラブちゃんと話したくないの?」
「む・・・」
 スムーズな恋人宣言まではいい返事なんだけどなあと桜庭は肩を落とす。
「俺は・・・ラブを優先させたい」
 なら選ぶ道はひとつしかないだろうが!とつっこみたいところだが、真剣に考えてこれなのだ。
 道は険しい。

「けどさけどさ、進だってラブちゃんと話したいんだろ?」
 しぶとく聞いてみる。沈黙は認めてるってこと。
「ならラブちゃんも同じこと思ってるって!」
 お、考えてる考えてる。
「進はそんなの眼中にないから気になんないだろうけどさ、ラブちゃん美人で格好いいから人気あるんだってー」
 圧倒的に女子に。
「進がくっついてないと誰かに取られちゃうかもよー」
 ラブの進様命っぷりは有名だけど、嘘はついていない。言ってないだけだ。
「ラブは俺の恋人だが」
「恋するオト・・・っと、男には関係ないって」
 だからラブに恋するオトメじゃないって。いや、いるかもしれないけど。
 あからさまじゃないだけで、たぶん、ラブは男にももててるはずだ。半端のない美人だし。並の男は遠巻きに見るだけだろう。場数踏んだ男が手を出したくなるタイプだ。きっと。
 自分も大して場数を踏んでるわけでもないのに桜庭は呑気にそう読む。
 お、また考えてるなー。

「進ー」
 進は、む、と桜庭を見た。ニヤニヤと笑いながら桜庭は進の手の中を指差す。
「栄養摂取の定時、とっくにすぎてるけど?」

以上

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