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境界線
Q-0
A-③
片手に背中、片手に膝の裏。
抱き上げたネオンはあまりに軽かった。
盗賊の極意に載る条件のクリアまで後ひとつ。
ネオンを難なく救護室に運ぶとクロロは本を具現化し、念能力のひとつで人を強制的に部屋から下がらせた。わずかな時間のふたりきりだ。
頸動脈をコンマ以下で逝かせたのでしばらくは起きない。身体に障害が残るかはネオン次第だ。本を閉じれば人が戻ってくる。それまでに。
クロロはネオンの細い腕を持ち上げる。クロロの運命を描いた細い指。これからは描けない。
手のひらを合わせてみる。まるで小さかった。何も拾えないのではないかといぶかるほど、弱い手のひらだった。ただその能力は魅力的だったし、何の力もないただの女の言葉に間違いなくクロロは慰められ揺さ振られた。
「大切に使うからね」
クロロは手のひらに口付け囁く。
ネオンは何も知らない。哀れみと、小動物に持つような愛しさをもってクロロはネオンに触れる。
ふと、惜しくなる。
規則正しく静かに繰り返される呼吸を続ける、鼻孔の下の軽く開いた唇。
を、奪う。
そのまま額にも口付けを落として、柔らかで小さくて運命を拾えない手のひらを、具現化した本の手形に合わせた。
コンプリート。
本をめくると、最後に新しくページが作られていた。無邪気な笑顔がそこにあった。クロロも小さく笑う。
本を閉じる。人が戻ってくる。
クロロは部屋から消えた。
以上
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