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Q-3
フー
ウィルベル

キャット?

 滴り落ちてくる汗を腕で拭う。乱れた呼吸は下にした相手の涙を見ながら落ち着かせていく。特に何かしらの意図もなく、肌を汚すそれを指で拭うと、顔をしかめて開いた身体ごと背けようとする。
「ぁ・・・ぅ、」
 痛みに顔を歪めて動作は止まった。
「痛い? あまり、動けないだろ?」
 ぎゅっと睨んでくる表情ははっきりと、誰の所為なのかと訴えてくる。クロロは笑ってそれを流した。
「身体がドロドロで気持ち悪いよな。シャワーを浴びよう」
 まるで赤子を抱き上げるかのように、脇の下を両手で持って持ち上げる。クロロが念を使えなくともネオンはそれが可能な程に小さく細く、軽い。最中には、壊してしまいそうだ、と柄にもなく焦った。
 目線の少し下。腹と股をどろりと流れていく白と赤に、歪な笑みが一瞬だけ浮かんだ。
「君は本当に何も知らなかったんだね」
 思わず満足気な声を出してしまった。

 捕らえられた小動物さながらの状態のまま、ネオンは口を開いた。
「・・・嫌だって、言ったのに・・・」
「知ってる。聞いたから」
「・・・だって、何度も言ったもん」
「うん、何度も聞いた」
 いちいち答えるクロロがネオンに向ける表情は、あくまで優しい。
「でもオレは止めないって言ったし、君に止めろという権利はないよね?」
 言い聞かせると、それでも言い募る。
「・・・口まで塞がれたわ」
「同意の上だったのに嫌がるんだもん」
「同意の上!?」
「する前に了解を得たでしょ。オレ」
 分かりやすくネオンはそっぽを向いた。恐らく事実だから反論が浮かばないのだ。無知を逆手にとったクロロが大きいことは言えないはずだが、ふたりに通常は適用しない。
「・・・もーいい。クロロさんとは口、きかない」
「へえ。どうぞ」
 答えはなかった。今から、ということらしい。
 クロロは我儘を寛容したままネオンの身体を開く。電気も消さないままだったのでよく見える。さっき少しだけ拭った腹と股を流れていた液体は、膝にまで滴れていた。
「先に拭いとくね」
 ティッシュを何枚かとり、丁寧に拭ってやった。股を探る際に無言の抵抗はあったが気にしなかった。
 よく今まで生きてこれたものだと呆れてしまう程ネオンの力は弱いのだ。
 それから大きな荷物を担ぐようにネオンを抱き上げた。バスルームに向かうために。
 その時も驚きからくる悲鳴をわずかにあげただけだ。口をきかない、という前言を何とか遂行したいらしい。
 哀れで悲しく可愛らしいわがままだ。

 ネオンのわがままは、クロロを不快にさせない。
 わがままに目くじらを立てる価値を見いだせないのか、それ以外に理由があるのか、うまく表現するすべを持たない。今のところ、いつまでこの意地が張り続けられるのかな、と新しい退屈しのぎを見つけた気分だ。
 ネオンは気付きやしないだろうが、実は初めてのネオンを気遣って、クロロ自身は十分には満足していない。なのに別にいいと思えた。満たされたし。
 いつだってネオンは、クロロを飽きさせないのだから。

以上

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